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- 書籍「社労士が見つけた!(本当は怖い)採用・労働契約の失敗事例55」6/13発売しました。
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東京の季節
- 著者
- 高木健夫
- 発行
- 昭和30年(1955年)
- 著者
プロフィール - 1905年福井県生まれ。「国民新聞」「読売新聞」「大阪毎日新聞」などの記者を経て、昭和14年北京で「東亜新報」を創刊して主筆となる。 戦後「読売新聞」に論説委員として復帰、昭和24年から17年間コラム「編集手帳」を担当。
春
さくら
さくら
お彼岸。あちらこちらの花だより。熱海ではもう桜が咲いた。さくら、さくら、さくら……。
尾崎行雄老が東京市長時代にワシントンに贈ったポトマク河畔の桜は、もはや、世界的な名所となった。ここが満開の時には戦争前からシカゴやニューョークから「日本桜満開、ポトマク行」と大書した臨時列車が客をはこんだという。イギリスのケント州ではコリンウッド・イングラムという桜博士が廿年前から、その邸内に百種以上の桜を植えていたそうだし、スイスに日本から桜がおくられたこともあった。それについて東京都豊島区の牧野敏雄さんという洗濯職人の青年から「桜外交」を提唱する手紙が私のもとに寄せられたのを御紹介しよう。―
「日本は文化国家として出発しながらノーベル賞金や口ックフェラー財団のような偉大な文化的貢献を世界的にすることは難かしい。が、国民全体の国際善意をもってするならば、世界のあらゆる国々に国際友愛のしるしとして桜を贈ることが出来ると思う。あらゆる国々に春が来て、らんまんたる桜の花が、シャンゼリゼェに、テームズ河畔に、ウンター・デン・リンデンに、モスクワの赤い広場に、スエズ運河に、ラングーンの黄金のパゴダに映える―その有様を考えただけで、日本人の平和を愛する心持が世界の人々に反映するような気持になるではないか」
愉快な提言である。ただし桜の苗木を外国に贈るためには病菌の消毒ということもあるし、送った先の風土がはたして桜の成育に適するかどうかという問題も研究されなければならない。が、このようなことは解決できないものではあるまい。問題は贈り主の熱意いかん、としうことになるだろう。
ひともとや春の日かげをふくみもちて野づらに咲ける山ざくら花 若山牧水
東京の町々に季節の花が何処にも咲いていたらどんなに楽しい事だろう。電車の窓からあちらこちらに桜の咲いているのを見ていると通勤電車の混雑のユウウツなどは完全に吹き飛んでしまう。これは何も東京に限ったことではないが、町はつねに美しくありたい、美しくしたい。それには花の咲く木や草をふんだんに植えるに限る。競輪の評判が悪かったころ、川崎や名古屋の競輪場では中央に花を植えた。そのせいかどうか知らないが、人心トミになごやかとなり、暴力をふるわなくなった。
東京都では競輪禍のヒソミにならったわけでもあるまいが、先頃から主な街路に花を植える運動をはしめた。大賛成である。都会の道跡がアスファルトやコンクリートになるのはよいけれども、そこにタバコの吸いがらや折詰や紙屑が散らばっているのでは何にもならない。舗装の冷たい散文的風景に美しいうるおいのアクセントをつけるもの、それは街路樹の緑だ。それに色とりどりの花が咲き乱れたら都市美満点。
PR運動が行われているが、都内の醜悪広告を撤去してその代りに広告主に一定の面積の花を植えさせたらどうだろう。立札に広告を兼ねて花の説明をさせる。「この美しい花には毒があります。××ペニシリン」などはなんと気が利いているではないか。どうも広告主はネオン・サインには御執心だが花を植えるPRを忘れている。彫像もアチコチに建てるようだが同時に噴水をもっとふやしてほしい。たとえば銀座四丁目、交通巡査のかわりに花壇に噴水をつくる。東西に水が出るときはその線がGO、南北にほとばしればその筋がGO! となる自動式噴水だ。冬、凍ったらこれを電飾の赤青に代えればよい。ちょいと風流な交通整理ではあるまいか。